
深夜の海底研究所。窓の外では、深海魚たちが静かに、でも確実に自分たちのルールで泳いでいる。
カセットテープからは、透明感のあるシンセサイザーの音色が流れてきた。
ねえ、一生懸命説明しているのに、相手がポカンとした顔をしていたり、資料を読み飛ばされたりしたこと、ないかな?
こっちは論理的に、正確に話しているつもり。
でも、相手の頭の中では「エラー:指定された用語は見つかりません」というアラートが鳴り響いているんだ。
理由はシンプル
君の使っている「言葉」が、相手の脳というシステムに定義されていないから。
今日は、システム同士を繋ぐときに使う「プロトコル(通信規約)」の考え方を応用して、どんな専門知識も相手の「日常語」に翻訳する技術についてお喋りしよう。
知らない専門用語は、相手の脳をフリーズさせる
プログラミングの世界では、変数を使う前に必ず「定義」をする。
定義されていない変数(Undefined)をいきなりコードに放り込めば、プログラムはフリーズする。
資料作成も、これと全く同じなんだ。
なぜ専門用語を使ってしまうのか?
僕たちがつい専門用語(カタカナ語や業界用語)を使ってしまうのには、2つの理由がある。
- 効率化の罠: その言葉を使ったほうが、仲間内では話が早いから。
- 自己防衛の罠: 難しい言葉を使うことで、自分が「専門家」であることを証明し、安心したいから。
でも、読み手にとって専門用語は「情報の壁」でしかない。
ひとつ分からない言葉が出てくるたびに、相手の脳の処理能力(リソース)はそっちに奪われ、肝心の中身(ロジック)が入らなくなってしまう。
専門用語をそのまま出すのは、親切心の欠如――つまり、「手抜きの実装」なんだ。
言葉の「プロトコル設定」:相手の知識レベルを確認しよう

異なるコンピュータ同士が通信するとき、まず「どの言語で、どんなルールで話すか」を合わせる。
これを「ハンドシェイク」と呼ぶけれど、資料作成でもこのプロセスが欠かせない。
相手がどの「Domain(領域)」に住んでいて、どの程度の「知識レベル」なのかを、書く前に特定しよう。
3つの知識レベル・プロトコル
- レベル1:初心者・非専門家(例:他部署の人、一般客)
- プロトコル:「日常語」のみ。
- 特徴:専門用語をひとつも使わず、身近な例え話(レゴ、料理、SNSなど)で説明する。
- レベル2:理解のある隣人(例:他職種のエンジニア、詳しい担当者)
- プロトコル:「概念語」。
- 特徴:本質的な概念(インフラ、プラットフォームなど)は使いつつ、独自の固有名詞は避ける。
- レベル3:同業者・プロフェッショナル(例:チームメンバー)
- プロトコル:「専門語」。
- 特徴:スピード重視。共通言語をフル活用して、思考の密度を上げる。
ほとんどの資料トラブルは、「レベル3の言葉を、レベル1の相手に投げている」ことで起きる。
これは通信エラーが起きて当然だよね。
専門用語の翻訳の3ステップ
じゃあ、難しいことをどうやって「翻訳」すればいいのか? 僕が研究所で実践している
「3レイヤー翻訳メソッド」を教えるよ。
ステップ①:言葉を「機能」まで解体する
まずは、その専門用語が「結局、何をしているのか」を、動詞で考えてみる。
- 例:API → 「別のソフトと情報をやり取りする、窓口のようなもの」
- 例:キャッシュ → 「一度見たものを覚えさせて、次を早く見せる一時的なメモ」
ステップ②:相手のDomain(領域)にある「似たもの」を探す
解体した機能を、相手が毎日触れているものに例える。これを「ドメイン・マッピング」と呼ぶよ。
- 相手が事務職なら: 「APIは、書類を受け渡しする『受付窓口』ですね」
- 相手が料理好きなら: 「キャッシュは、よく使う調味料を『手元に置いておく』感覚です」
ステップ③:エモい比喩で「価値」を伝える
ただ説明するだけでなく、それが相手にとって「どう嬉しいか」をエモく付け加える。
- 翻訳後: 「API連携をすることで、君のアプリは世界中のデータと繋がる『冒険の扉』になるんだ」
【実践】AIを「素人テスト」のテスターにしよう

自分では分かりやすく書いたつもりでも、どうしても「専門家の匂い」は漏れ出てしまうもの。
そこで、AIに「その分野のことを1ミリも知らない中学生」になりきってもらって、君の文章をテストしてもらおう。
【言葉のプロトコル変換プロンプト】
以下のプロンプトを使って、自分の書いた文章をデバッグしてみて。
指示文: あなたは、ITやビジネスの専門用語を一切知らない「14歳の中学生」です。 私が今から書く文章を読んで、理解できない言葉や、読んでいて「難しそうだな」と拒絶反応が出る部分をすべてリストアップしてください。
対象の文章: [ここに自分の原稿を書く]
追加のミッション: 指摘した難しい言葉を、中学生でもワクワクしながら理解できる「日常の例え話」を使ってリライトしてください。 ただし、論理的な正しさは失わないようにしてください。この「素人テスト」を通すだけで、君の資料の読了率は劇的に上がるよ。
専門用語を使っていい「唯一の例外」
ここまで「専門用語は使うな」と言ってきたけれど、実はひとつだけ例外がある。
それは、「相手にその言葉を覚えてもらいたいとき」だ。
共通言語を教えることで、次回のコミュニケーションを加速させる。これはシステムの「セットアップ」と同じだね。
その場合は、必ず以下のフォーマットで書こう。
「[専門用語]」というのは、一言で言うと「[日常語の例え]」のことだよ。こうやって、一回だけ丁寧に定義してあげれば、それ以降はその言葉を使ってもエラーは起きない。
相手を「教育」するのも、優れた資料の役割なんだ。
専門用語翻訳チェックリスト
資料を書き終えたら、この「エラーチェック」を走らせてみて。
| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| カタカナ語を3つ以上並べていないか? | カタカナの連発は、脳をフリーズさせる。 |
| 略称(3文字英単語など)を使っていないか? | 相手にとって「CRM」や「KPI」は暗号かもしれない。 |
| 中学生が辞書なしで読めるか? | 読めないなら、まだプロトコルが合っていない。 |
| 例え話に「相手の趣味や仕事」を入れたか? | 相手のDomainに歩み寄るのが、最高のホスピタリティ。 |
結論:言葉を選ぶのは、相手への「招待状」
難しいことを難しく語るのは、誰にでもできる。
でも、難しいことを「君なら分かるよ」と優しく語るのは、君にしかできない。
相手の知識レベルに合わせて言葉を選ぶ。それは、相手の知性を尊重し、君の世界へ招待する「最高のギフト」なんだ。
君の紡ぐ言葉が、バグのない美しいプログラムのように、誰かの心にスムーズにインストールされることを願っているよ。
さあ、今日の研究報告はここまで。 ゆっくり休んで、脳のキャッシュをクリアにしてね。おやすみ。
資料作成に必要なスキルの紹介と、それを学べる書籍については以下をチェック!